2022年7月27日 英米法総論 試験解説

I. 検察官にとっては有罪を確保しつつ,陪審トライアルを省略できる。 弁護人にとっては量刑を軽くしてもらえる。両者の思惑が一致すれば取引が成立し,大量のありふれた事件を迅速に処理できることになる。検察官・弁護人間の取引結果は裁判官を拘束せず,裁判官が不当な取引と判断すれば,被告人は有罪の答弁を撤回できることになるが,通常は裁判官も取引に沿った量刑を行う。取引は陪審トライアルがhung juryとなったときにも,おそらく弁護人有利な形で再開されうる。 大陪審や自己負罪拒否特権,免責の話は共犯者の供述を得るときの話なので,混同して論じてはならない。

Ii. 中世以来,イングランドの地方を統治してきた装置で,とくに刑事司法においては,ロンドンから裁判官が巡回してくる間に,軽微な犯罪について処理してきた。治安判事裁判所は現在は都市部では法律家を裁判官として任命することが増えてきたが,いまなお1万5千人もの素人裁判官が刑事事件の大部分(summary-only offencesとeither-way offences)を処理している。週1日程度出勤し,日当はでるが無給。陪審のつかない事件を2,3名の合議で審理を行う。法的に複雑な問題はあまりないはずであるが,法律家であるjustices' clerkが法を教える。大法官が任命し,解任もされうるが,もともと地方からの推薦に基づくもので,地方名士が就任してきた。現在では,人種や性別のバランスもとられている。中央のコントロールも強化されつつあるが,地方の抵抗も強い。

III. Amendment XIVは§1でデュープロセスや平等保護を憲法上保障するとともに,§5でそれを実効的にするための立法権限を合衆国議会に与えている。しかし§1が人権保障を州に対するものとしているため,州が立法など何らかの形で人権侵害をもたらしているというstate actionの要件があるため,それを実効的にする立法権限に関する§5もstate actionを必要とするものと解釈されたため,私人であるホテルやレストランが自らの意思で黒人お断りとしても,§1で違憲とされることもなく,また§5で連邦法を作って違法とすることもできない。しかし州際通商条項はArticle I§8に列挙された合衆国議会の立法権限で,もともとstate actionの要件もなく,州際通商に関わる私人をも規制することができ,さらに1937年以降は,州際通商に実質的に影響を与えることに規制対象が広がる解釈がなされたため,1964年のCivil Rights Actなどは,ホテルやレストランでの人種差別を禁じたり,民間での雇用差別を禁じるために,州際通商条項を根拠としている。

IV. アメリカでは会社の組織に関する適用法は会社設立州法とされ,本件の合併がデラウェア会社同士であることから,どこの州に裁判管轄権があろうとも,州際私法の問題のないfalse conflictとして,すべての利害を有しているデラウェア州法が適用になろう。とくにデラウェアは安定して信頼にたる会社法を売りにしていて,Supreme Courtのみならず,会社法に関する第一審裁判所であるCourt of Chanceryの判例も,裁判官の専門性に裏打ちされた信頼性を有している。そのため大企業の多くがデラウェア州で会社を設立している。本件についても,原告にとって何らかの理由でデラウェアの裁判所やその会社法判例が有利であるということは別としても,Court of Chanceryがデラウェア会社法を解釈適用する高い権威を帯びていることから,原告がそこに訴訟提起したことは自然である。なお,イングランドの高等法院のChancery Divisionが会社法に関する管轄権を有していることにもみられるように,会社法はエクイティ由来と分類され,本件請求にある契約の特定履行もエクイティであることから,同様にデラウェアのCourt of Chanceryという名称の裁判所がエクイティ系の事件を管轄することから,本件訴訟がそこに提起されたともいえる。本件は会社法や契約法という州法が問題となる事件であるため,連邦地方裁判所が事物管轄権をもつとすれば,連邦問題管轄権ではなく州籍相違管轄権に求められるが,その場合,完全なる州席相違が要件となる。本件は原告Twitter社の州籍である会社設立地デラウェアまたは主たる事業地キャリフォーニアが,3被告のいずれかの州籍と一致するだけで完全なる州籍相違がないことになるが,被告会社の1つどころか両方ともがデラウェア州法人であるという問題文の情報だけで,完全な州籍相違がなくなるので,連邦地裁の事物管轄は否定できる。被告Musk本人がどこの市民であるかとか,両被告会社の主たる事業地がどこにあるかに拘泥するまでもない。