2019年7月26日英米法試験解説

I. バリスターは資格を有していても個人開業でなければ法廷弁論権はなかった。これはバリスターがいかなる依頼者の仕事をも引き受けることを原則とするcab rank ruleと関連している。とくに法廷で弁論するバリスターは,依頼者の利害からある程度離れた立場で弁論することにより,バリスター出身者である裁判官とともに判例形成に寄与するものとされた。しかし1990年法は,Law Societyなどのような団体が研修プログラムを認定してもらうことによって所属メンバーに法廷弁論権を与えることを可能とし,実際,Law Societyは開業ソリシターについて研修プログラムを認定してもらった。しかしCrown Prosecution Serviceのような政府機関や企業に雇われたバリスターやソリシターについては,依頼者が固定してしまって,これまで法廷弁論をになっていたバリスターのように依頼者中立的な立場で弁論できないとの理由で,認定権限を有していた幹部裁判官がCPSの研修プログラムを認定をしようとしなかった。1999年法は,被用されているだけの理由で法廷弁論権の付与を拒否できないと明定することで,CPSのバリスターについては能力はすでに資格付与で担保されているので直ちに法廷弁論権が与えられ,またCPSのソリシターについては研修プログラムが認定された。

II. アドヴァーサリー・システムにより,刑事では検察官と弁護人,民事では両弁護士が対立的に証人尋問をし,裁判官は中立的な立場で証拠法則に関する判断を下していく。各証人について主尋問と反対尋問が行われ,あるていど予測可能な主尋問に対して,反対尋問では証人やその証言の信用性を崩そうとする。証人の証言内容とともにdemeanorも陪審の判断材料となる。そもそも伝聞証人はあらかじめ証拠能力なしとして法廷には現れないが,目撃証人であっても,個々の尋問について関連性がなかったり,伝聞を尋ねるものであったりする場合には,相手方から異議が述べられ,裁判官は即決で異議を認めるか却下するかをする。尋問について異議を述べなければ異議は放棄されたとみなされるだけでなく,証拠法則に反する尋問に証人が答えてしまった後で異議を述べても,陪審は聞いてしまったのであり,いかに裁判官から聞かなかったことにせよと説示されても,無意識の記憶がどのように陪審の判断に影響を与えるかわからないので,弁護士・検察官は証人が答えるのを止めるためにも,即座に異議を述べる判断力が求められる。

III. 合衆国憲法第1編8節3項の州際通商条項は,通商に実質的に影響を与える限り規制する権限を連邦議会に与えているために,民間における差別を連邦法で禁ずる1964年法も州際通商条項を根拠にすることができるようになった。Title VIIにも一部上院議員からの強行な反対があったものの,可決されることになった。Title VIIは人種,体色,宗教,性別,出身国を理由とした雇用差別を禁ずる。この規定自体は1964年以来改正されていないものの,その後,セクシュアル・ハラスメントを禁ずるものと連邦最高裁が解釈するようになった。セクシュアル・ハラスメントには,上司との性関係の見返りに昇進昇給を与えられるような対価型のみならず,上司,同僚,顧客などのunwelcomeな性的な言動により職場環境の悪化する敵対的環境型のいずれも,「性別」を理由とした雇用差別に他ならないという判例を形成することになった。