2019年7月25日英米法総論試験問題解説

I. 予備質問と理由つきの忌避と理由なしの忌避。時間が限られた中で陪審員候補者のプロファイルを探るので,理由つきの忌避にあたるような具体的な利害関係を有する候補者はみつけだせても,理由なしの忌避となると,どうしても候補者のタイプについての弁護士の経験と勘に頼ることになり,さらにはステレオタイプの問題が生ずる。人種と性別をパターンとして理由なしの忌避に用いるとBatson Ruleによって違憲となるが,手続的には相手方からの異議を受けて人種ないし性別以外の理由の提示と進む。

II. イギリスがヨーロッパ人権条約を批准しただけでは,国としての対外的責任を負うだけで,国内裁判所で適用されることにはならない。1998年人権法はヨーロッパ人権条約を包括的に国内法化。しかし通常の国内の法律とヨーロッパ人権条約の規定とが矛盾する場合には国内の法律が国内裁判所では適用されて判決。ただしその場合は不適合宣言。

III. Material factsが違うため事案が異なるとなれば,一見先例と思われる判例でも拘束されない。Ratio decidendiの射程を狭めることで,過度に判例に拘束されないため,判例の発展に寄与。19世紀半ばから1966年までイギリスの貴族院が判例変更をしない時期にあっても,区別はなされてきた。製造物責任では判例を区別することにより,やがて判例変更をもたらすことにもなった。

IV. 各州と連邦が刑事司法権の単位。各州の刑法についてはそれぞれの州裁判所に専属管轄があり,連邦刑法については連邦裁判所に専属管轄。拳銃所持のような通常の犯罪については州法が支配し,連邦法で,たとえば学校周辺での銃の所持を州際通商条項に基づき連邦法で犯罪とすることはできない。連邦法の「通商に影響を与えて銃を所持」という要件はそのために不可欠。したがってアラバマ州刑法と連邦刑法とは証明しなければならない要素が異なる。そういったことから各州や連邦で一旦裁かれても,別の刑事司法単位で裁かれることは妨げないというのが判例。