2018年Sセメスター法学部「英米法」試験解説

I. 州際通商条項は,各州が州内産業の保護主義に走ることで合衆国全体の経済が損なわれることのないよう,合衆国議会に州際通商規制立法権限を与えた。文言上は,合衆国議会に立法権限を与えただけであるが,合衆国最高裁は早くから同条項の解釈として,合衆国議会が州際通商規制立法をしていなくとも,州が州際通商を差別したり,州際通商に不当な負担をかけることを禁じているというDormant Commerce Clauseの法理を確立してきた。そしてその一適用として,州が州内での小売に課すsales taxを州外から通信販売で購入される物品に課すことも同法理によってできないものとしてきた。しかしこの結果,同じ物品を地元の小売店で購入する場合には売上税が課されるのに,アマゾンなどの通販で購入すればそれが課されないことになり,州際通商をむしろ優遇しているとの問題が指摘されてきた。今般の判例変更はその問題を解消することになったが,反対意見が指摘する通り,もともとDormant Commerce Clauseの法理は,合衆国議会が通常の州際通商規制立法をすれば乗り越えられるものであって,実際,通販に対する売上税課税を認めるようにする法案はしばしば合衆国議会に提出されていたものの,成立してこなかったという経緯がある。

II. 理由なしの忌避は検察官や弁護士が経験と勘によって,あるいは陪審コンサルタントを用いて,自分側にとって不利な判断をすると思われる陪審員候補者を,理由の提示を求められることなく一定人数忌避できる制度である。Voir direで陪審員候補者のプロファイルがある程度わかるとはいえ,しばしばステレオタイプによってなされるものであり,とくに人種と性別をもっぱらの理由とする場合については,平等保護条項違反となる。しかしもともと陪審員候補者には特定の事件で陪審員となる権利があるものではなく,忌避されてしまえば通常は理由を示されることもなくその事件からは解放されることになり,自ら異議を述べる機会はない。しかし検察官や弁護士がパターンとして特定の人種や性別の候補者に対して理由なしの忌避を行っている疑いがある場合,相手方は異議を提起して,人種ないし性別をもっぱらの理由として忌避しているのではない,それぞれの理由でたまたま忌避に至ったのである,ということを説明させることができる。そしてその説明に説得力があるかは最終的には裁判官の判断に委ねられ,とってつけたような説明であるとなると平等保護条項違反としてその忌避をできないものとされる。

III. 犯罪の主観的要件は,当該法律条文の解釈によるものであって,明示的な条文,あるいは黙示ではあっても明確にできる解釈が支配する(Model Penal Code§2.02(1)の"as the law may require")が,一般的には以下のような推定が働く。問題文の薬物に関する条文でmaterial elementとして検察が合理的疑いを超える証明をしなければならないのは,ハルシノゲンという薬物と625グラムという量である。そして主観的要件としては,knowinglyと明示されているのであれば,その両elementについてともにそれを検察が証明しなければならない。Knowinglyといった明示がない場合でも,Model Penal Code§2.02(1)にある通り,故意過失の不要な厳格責任となるものではなく,厳格責任がありうるとしても,それは市民の生命や健康を危険にさらす行為に対して軽微な刑を科す際に厳格責任であることが条文上明確な場合に限られる。そして主観的要件が明定されていない場合のデフォルトルールは§2.02(3)の通り,purposely, knowingly or recklesslyであり,negligentlyは含まれない。そしてこの場合も両方のmaterial elementについてこの主観的要件が,別段の解釈が明確になされる場合でない限り,共通して適用となる。