2017年7月19日 法科大学院 英米法総論試験解説

I. 植民地時代以来,アメリカの法曹養成は徒弟教育によっていた。裕福な者はイングランドのInns of Court。大学やロー・スクールでの法学教育はそれに取って代わるものではなかった。1870年以降のラングデルのロー・スクール教育改革により,大学でのアカデミックな法曹養成が制度化。各州の弁護士試験の受験資格も,ロー・スクール経由が原則化。弁護士試験合格後の実務修習も,あったとしても簡単なもの。大規模ロー・ファームは,若手弁護士に実務訓練の機会を与えてきたが,21世紀になってからのロー・ファーム組織の変質により,その機能の弱体化。

II. 1972年法は,具体的な実体権を定めるものではなく,現在および将来のEU法を国内法に優越するものとして包括的に国内法とする統治体制の根幹を定める法。だから最高裁は今年の判決で,EU離脱通告には国会の事前の授権が必要とした。。1972年法を単に廃止してしまうと,EU法が優越規範でなくなるばかりでなく,国内法効力の根拠自体がなくなる。普通,国内実定法を廃止しても,法的安定性から遡及的効果はないのが原則であるが,そもそもEU法の国内法効力の根拠がなくなってしまうと,離脱以前の事件であっても離脱後の裁判所がEU法を適用することができなくなってしまうかもしれない。そうでなくとも,これまで国内的効力のあったEU法上の諸権利が離脱と同時に一斉になくなってしまうと,大混乱になることは間違いない。したがってEU法上の権利を当面,国内予報より優越しない形で存続させる国内法の手当が必要。それがいわゆるGreat Repeal Bill(実際に今月国会に提出された法案名はEuropean Union (Withdrawal) Act 2017)。

III. 直接主義,口頭主義,交互尋問方式による反対尋問にさらされる。Demeanor(証言態度)という無形の情報。証拠能力(関連性)が,特定の証人について事前に判断されるよりも,個々の質問が伝聞かなどという場面で,相手方弁護士の異議に基づき判断されることが多い。弁護士も裁判官も即座の判断が求められる。陪審は法廷で聴いたことに基づいて証明力を評価。専門家証人は当事者双方が依頼して連れてくるので,裁判官が事前にスクリーニング。

IV. 性差別事件なので中間審査基準。(1)も(2)も「重要な利益」かもしれないが手段は実質的に関連?婚姻していない母親と婚姻していない父親の差別的取扱い。生地主義原則のアメリカでの血統主義による補充。(1)については,子供に合衆国国籍を付与しづらくなっている父親が不利益取り扱いを受けている?でも実態は,未婚の母親が子供を育てるのがあたりまえというステレオタイプ?合衆国国民の父親が認知して父親らしくちゃんと扶養していても高いハードル。(2)については,無国籍を避けたいのであれば,それに直接対処する規定を置く方が簡単。合衆国国籍を父親がもつ場合,外国籍をもつ母親の国の国籍法では父親がそこの国籍をもつ場合に子供にその国の国籍を与えるとしていると,かえって無国籍のリスクが高まる。