2016年 7月26日 法科大学院「英米法総論」試験解説

I. 融合といっても同一の裁判所で共通の手続が用いられるようになったということ。その後に法律などで作られた権利については,コモン・ローかエクイティかを明確にする必要はなくなった。刑事はすべてコモン・ローなのでもともと問題はないが,合衆国憲法第7修正や州憲法で保障された民事陪審の権利は,コモン・ロー上の権利として保障されているため,民事陪審が維持されているアメリカではなお分類する必要。しかも憲法制定時の民事陪審の権利を保持するという形での保障なので,歴史的取扱い,救済の性質,複雑性などを勘案して分類しなければならない。また,エクイティは対人的な義務づけで,補充性,裁量性,弾力柔軟性,裁判所侮辱という性格が維持されていることも,なおコモン・ローとの違いとして残っている。たとえば公立学校での人種別学を解消するための差止はエクイティ上の救済であるため,裁判所が具体的な指示を与える命令を随時行うこととか,それに従わない州の公務員を裁判所侮辱で間接強制するといったことがある。

II. 連合王国では国際法は国内法化する立法が行われないと,国内裁判所で適用できない。1972年法はEU法を国内法化したもので,1998年法はヨーロッパ人権条約を国内法化したもの。実体的には,EU法は国内法に優越するものとして国内法化されたため,国会主権の原則,後法は前法を覆すという原則を部分的に修正したが,ヨーロッパ人権条約はむしろ矛盾する国内法に劣後するものとされ,国内裁判所ではdeclaration of incompatibilityをするに留まる。手続的には,国内裁判所でEU法が争点となれば,ECJに先決裁定のための事件の付託を行うことになるが,人権法が争点となる場合は,ヨーロッパ人権裁判所が国内救済前置としているため,国内裁判所手続が完結してからでないと,ヨーロッパ人権裁判所への個人の救済申立てはできない。

III. 大陪審は非公開で密行性のある手続。逮捕や起訴されていない被疑者本人が証人として大陪審に召喚されても,弁護士は大陪審室の中には入れないのが通常。証人が自己負罪拒否特権を行使する場合,全面的な証言拒否はできず,個別的な尋問内容への証言をすると自己を有罪とする証拠とされる可能性の有ることを示さなければならない。弁護士が部屋の外に待機しているのであれば,相談することは許されるが,そもそも相談するか否かの判断は部屋の中で証人本人がしなければならない。自分に都合のいいことは証言して都合の悪いことについては自己負罪拒否特権を行使するようなことがないように,一旦証言をしてしまうと,同一トピックについては自己負罪拒否特権を主張できない。自己負罪拒否特権はあくまでも自己を有罪とする証言を強制できないということなので,検察官が証言を当該証人に対して有罪とするための証拠として用いないとか,そもそも当該証人を訴追しないとかいった免責を与えれば,自己負罪拒否特権がなくなり,証言強制できる。しかし共犯者の証言を協力的に得たい検察官としては,一方的に免責を与えて証言強制するよりは,共犯者との間での答弁取引をする条件として証言を求め,その過程で免責を提示したり,さらには証人保護プログラムを提供する条件を追加したりして,共犯者からの証言を得ようとすることがある。

IV. ニュー・ディール期以降,州際通商条項は通商に実質的影響のあることについて連邦規制できるものとされるようになった。判例百選14事件のWickard判決では個々の農家の自家用小麦が通商に与える影響がわずかであっても,全国の農家での自家用小麦がマーケットに与える影響は莫大であるとして,自家用小麦を含めた生産調整を合憲とした。百選14事件のGonzales判決でも,同様の理由でマリファナの全国的規制を合憲としている。百選16事件の解説にある1995年Lopez判決や2000年Morrison判決では,州際通商規制立法がいくら広く認められるといっても,学校周辺での銃や性暴力犯罪がひいては州際通商に影響を与えるというだけでは合憲とはできないとしたものの,本問の事案でのHobbs Actは,強盗一般ではなく,あくまでも強盗で通商に影響を与えることを連邦犯罪としたものであり,しかもGonzales判決で全国的にマーケットのある経済活動とされた麻薬取引に影響を与える強盗となれば,個々の強盗が通商に与える具体的影響を問題とすることなく,全体として通商に実質的影響を与える行為として州際通商条項を根拠に連邦犯罪となりうる。