日米法学会総会
2014年9月20日(土),21日(日)
東京大学 本郷キャンパス 山上会館

9月20日(土)判例研究会

12:10
勝田卓也(大阪市立大学)
Alleyne v. United States, 133 S.Ct 2151 (2013)
陪審審理を受ける権利は,刑の下限を引き上げる事実認定にも及ぶ。

1:10
(1) 木南敦(京都大学)
Hillman v. Maretta, 133 S.Ct. 1943 (2013)
Robert Hillmanは,合衆国議会の法律(FEGLIA)に基づいて合衆国政府従業員対象の団体保険に加入し妻(Maretta)を受取人として指定したのち,彼女と離婚した。その後,彼はJacqueline Hillmanと婚姻したが,この保険に関して受取人指定を変更しないままに死亡した。これらのことが生じた間,この登場人物はヴァージニア州に住んでいた。ヴァージニア州は,ここに見られるような受取人指定は離婚によって撤回され,これにより元配偶者に移転することを妨げられた死亡給付はその元配偶者が死亡した者より先に死んだとして支払われるとする規定(Section A)を置いている。さらに,この規定が死亡に基づく給付に関して合衆国法に基づき排除されるならば,死亡者の元配偶者が対価を払わずに,この規定に従えばこの元配偶者が死亡による給付の支払に権利を有することのない支払を受けると,この者はこの排除がなかったとすれば支払に権利を有する者に,受けた支払の額を払わなければならないという規定(Section D)を追加している。Jacqueline Hillmanは,このようなヴァージニア州の法律に基づいてMarettaに対して彼女に支払われた保険金を取り戻すため訴えを提起した。合衆国最高裁判所は,FEGLIAがSection Dを排除するという判断を示した。
本報告では,死亡に伴う資産移転法の改革の例であるヴァージニア州の法律の規定の意義に触れつつ,この合衆国最高裁判決について類似する裁判例と対比しながら報告する。

(2) 横大道聡(鹿児島大学)
Agency for International Development v. Alliance for Open Society International, Inc., 133 S.Ct. 2321 (2013)
連邦の助成金を受領する条件として,売春および性目的での人身売買に反対する方針を導入するように国内団体に対して要求する連邦法の規定は,当該団体の第1修正の権利を侵害し意見であるとされた事例。

2:10
(1) 地神亮佑(大阪大学大学院)
Unite Here Local 355 v. Mulhall, 134 S.Ct. 594 (2013)
労働組合が組織化活動を行うにあたり,使用者が当該労働組合に対し援助を行うことは,それが無形のものであっても,労使関係法において禁止される経理上その他の援助にあたるとされた事例。

(2)東川浩二(金沢大学)
Ariz. v. Inter Tribal Council of Ariz., Inc., 133 S.Ct. 2247 (2013)
連邦法が定める有権者登録の条件をより厳格に実施するためのアリゾナ州法の規定は,連邦法によって専占されており,違憲無効とされた事例。

3:10
(1)浅妻章如(立教大学)
PPL Corp. & Subsidiaries v. Commissionaer, 133 S.Ct. 1897 (2013)
通常,アメリカ法人が外国で納めた法人税等は,アメリカに納税すべき税額から控除される。例えば,アメリカの税率が35%。英国の税率が23%であり,アメリカ法人が英国で100の所得を稼いだ場合,外国税額控除の救済措置がなければ,英国で23納税,アメリカで 35納税,100−23−35=42が残額となってしまい,アメリカ国内投資と比べて国外投資が不利に扱われてしまう。外国税額控除により,アメリカでは 35−23=12だけ納税すれば済み,100−23−(35−23)=65が残額となるため,国内投資と国外投資とが中立性となる。
本件で問題となったのは。英国保守党政権下で国有企業(電力・水道等)が民営化された後,1997年に労働党が政権をとり課税することとなった棚ぼた税である。この税は,民営化公共事業の利益獲得価値(profit-making value)と民営化時の新株発行価値(flotation value)との差額に課税する(収益力に対して保守党政権下での価格が安すぎたため,差に課税する設計)というものであった。英国民営化公共事業に投資していたアメリカ法人が,棚ぼた税のアメリカでの外国税額控除適用を求めたところ,アメリカの課税当局は,英国が価値(の差額)に対して課税しているので外国税額控除の対象とならない,と主張した。裁判所は,棚ぼた税の計算式は利益に対する課税であるので,外国税額控除の対象となる,と判断した。
この事例は,資産課税と所得課税との境界を考えさせてくれる。

(2)茂木洋平(桐蔭横浜大学)
Fisher v. University of Texas at Austin, 133 S.Ct. 2411 (2013)
大学の入学者選抜手続における人種の使用は,正しく理解された厳格審査の下で合憲性を審査されるべきとされた事例。

4:10
(1)鞠山尚子(東海大学)
Federal Trade Commission v. Actavos. Inc., 2223 (2013)
先発医薬品メーカーが,後発医薬品メーカーに金銭を支払うことにより,後発医薬品の発売を延期させること(リバースペイメント)には,反トラスト法が適用され,その違法性は,いわゆる合理の原則により評価される。

(2)白水隆(帝京大学)
Hollingsworth v. Perry, 133 S.Ct. 2652 (2013)
キャリフォーニア州憲法改正のための第8号州民発案の公式提案者は,その合憲性を合衆国最高裁判所で争う当事者適格を有していない。
United States v. Windsor, 133 S.Ct. 2675 (2013)
婚姻を異性間に限定する連邦婚姻保護法第3条は,デュープロセスを定める合衆国憲法第5修正に反して違憲である。

9月21日(日)10:00
シンポジウム『法とセクシュアリティ――同性婚の次の課題』
2013年6月,合衆国最高裁判所はUnited States v. Windsor, Hollingsworth v. Perryという2つの同性カップルの婚姻に関する判決を下した。前者は連邦婚姻防衛法Defense of Marriage Act (DOMA)第2条を違憲と判断し,後者は婚姻を異性カップルに限定するキャリフォーニア州の州憲法改正「プロポジション8」を違憲と判断した連邦裁判所の判決に関する上訴に関し,州が上訴しないと判断したとき,州民投票の推進団体には上訴人適格がないと判断することで,下級裁判所の違憲判決を是認した。
1996年のRomer v. Evans判決以降,合衆国最高裁判所は,「敵意」,「自由」といった言葉を用いて性的指向を消極的にではあるが,認知してきた。平等保護の法理からすると,性的指向に対する差別についての審査基準のレヴェルが関心の対象となる・だが,これまでの判例を読み解くと,焦点であるはずの「セクシュアリティ」,あるいは性的指向に関わる言葉とイメージが判決の中で次第に希薄化していることにも気がつく。「セクシュアリティ」が不可視化された中で,レズビアン,ゲイ,バイセクシュアル,トランスセクシュアルとトランスジェンダー,インターセックス,アセクシュアルの人々は,主流への同化と異化のバランスをとることになる。What's next?
2003年のLawrence v. Texas判決は,親密な関係の保護の範囲が拡張されたことを示唆し,今回の判決を踏まえると,州の保護がカップルを越えてどこまで及び得るのかも関心の対象となる。伝統的に州の領域とされた家族において,法的に保護される婚姻の射程の変化をもたらすのかも,関心事となり得る。What's next?
現在,いくつかの州で,同性婚を禁止する州憲法,州法についての訴えが連邦の裁判所に係属し,次々と違憲と判断されている。州憲法に「婚姻は1人の男性と1人の女性」という趣旨の憲法修正が提案され,支持された数年前とは異なる風がアメリカ社会において吹いているようにも見える。事態はまだ流動的である。What's next?
同性カップルの法的婚姻への障碍を除いた2つの判決は,尊厳と婚姻だけでなく,セクシュアリティと平等について,法の新しい局面が始まったことを示唆しているのではないだろうか。


紙谷雅子(学習院大学)
本シンポジウムのテーマについて

基調報告
Noa Ben-Asher(Pace Law School)
“The Metamorphosis of the Legal Homosexual”
Though Windsor is an important civil rights victory, the Court's Opinion ushers in new costs for the legal homosexual. In the process of dignifying the same-sex couple, the Court erases the terms homosexual and lesbian, casts marriage as an elevated moral state, and promotes a concept of "weak dignity." According to the Court, this dignity is not inherent in all human beings but is conferred upon by the State, in form of state-acknowledged marriage, which enhances the moral status and integrity of those who commit themselves to it. DOMA was condemned for victimizing those who were in that state-acknowledged relationship. There are suggestions on the concept of equal dignity to overcome Windsor's "weak dignity" that advocates and courts can employ to the next wave of marriage litigation.

Frances Olsen(UCLA Law School)
On Marriage after Windsor and Perry

谷口洋幸(高岡法科大学)
同性間パートナーシップと法制度
同性間に婚姻を認めるべきか否かという世界の議論の中で,日本法は,実務上,婚姻を異性間に限定してきた。これに対し,研究者や実務家,当事者の間での議論は分散しており,いくつかの流れに分類できるが,なかなか具体的な制度の提案とその前提となる人々の意識転換には結びついていない。これらは相互に対立する,あるいは,独立したものというよりは密接な連関のある。そして日本における同性カップルの法的関係を確立する上では不可避である。