2013年9月3日 法科大学院「英米法総論」試験問題解説
I. Supreme Court of Judicature Act 1873により,コモン・ロー3裁判所,エクイティ裁判所,ローマ法系裁判所を統合して高等法院。すぐに3部構成で,コモン・ロー系のQueen's Bench,エクイティ系のChancery,ローマ法系のProbate, Divorce & Admiraltyは1970年法によりFamily。単独審原則で,Queen's Benchでは上訴審やjudicial reviewで合議法廷Divisional Court。各部長裁判官とHigh Court judge。補助裁判官のmasterとDistrict Judge。ロンドンに1つという組織だが,各地にDistrict Registryを置いて裁判官が巡回。地方の補助裁判官がDistrict Judge。もともとLord Chief JusticeがQueen's Benchの部長で,Lord ChancellorがChanceryの名目上の部長。Constitutional Reform Act 2005により,Lord Chancellorは裁判官としての職務がなくなり,Lord Chief Justiceはイングランドおよびウェールズの裁判所全体の長。Queen's Benchには新たな部長が設けられ,序列では3部長のトップになる。LCJと3部長が控訴院の部長のMaster of the Rollsとともにイングランドおよびウェールズの裁判所の幹部となっていて,その点では貴族院や最高裁判所の裁判官より重要な権限を有する。高等法院の裁判官は刑事法院や控訴院でも裁判に当たる。

II. 英米は判例法主義のもとで先例拘束制。しかし判例とされるのはratio decidendiだけなので,material factsを操作することでの区別の技術が発達。判例変更も不可能ではない。イングランドでは,19世紀中ごろから約1世紀間,判例変更を絶対的に禁止して法的安定性を確保しようとしたが,区別は行われ続ける。1966年の貴族院のPractice Statementにより,無理な区別をするよりは判例変更の方がよいということで,判例変更を可能としたが,その後も判例変更に慎重。アメリカでは判例変更を禁止したことはないが,法形態によって判例変更に積極的であったり消極的であったりする。制定法に関しては,判例法主義のもとで,制定法の規定していない部分についてはコモン・ローのバックアップがあるため,文理解釈中心で,立法資料を用いるとしても一貫していない。したがって区別というまでもなく制定法の適用範囲の問題として解決できる場合もある。そして制定法を作るのは議会ということで,その解釈をした判例が後に疑問とされても,解釈変更を裁判所が先走ってするよりも議会の多数決での明確化する改正をした方が混乱が少ないとして,判例変更はしない傾向。ただしプロ野球に反トラスト法を適用しないとした判例が,他のプロスポーツに同じ法律が適用されるようになっても維持されたことは,恣意的な区別の問題。コモン・ローの判例については,もともと議会が介入しない傾向の分野であるため,裁判所による法発展での判例変更がある。憲法判例は,誤った憲法解釈であるとしても議会が通常の多数決で変更できないため,必要ならばむしろ裁判所が判例変更をすべきものとされる。

III. 第14修正は州に対して適用があるものであるから,ここでは州裁判所での手続に関してのみ論ずる。Batson判例により,人種または性別のみを理由にパターンとして理由なしの忌避を行うと平等保護違反。忌避を行ったのが州の公務員である検察官であればstate actionの問題はない。被告人や民事訴訟の当事者,またはその弁護士のように私人が忌避の主体である場合も,理由なしの忌避の権利が州の裁判所規則や法律で定められているし,陪審を構成するということが裁判という州の裁判手続の中で行われている以上,state actionが私人の行為の背景にあって,第14修正上のstate actionの要件は満足する。

IV. 合衆国憲法は連邦政府に委譲された権限を列挙するものであって,列挙されていない権限を連邦政府は行使できない。連邦裁判所の裁判管轄権については,第3編に規定があり,その中に異なる州のcitizenの間の争訟が含まれている。しかし1857年のDred Scott最高裁判決では,黒人は,奴隷であろうがなかろうが,第3編にいうcitizenではありえない,としてDred Scottを原告とするdiversity of citizenship管轄権を不存在とした。第13修正では奴隷制を廃止して,すべての黒人を奴隷でないとしたものの,Dred Scott判決のcitizenの定義を覆すということについては明確ではなかったので,第14修正のこの規定は,主として国内の黒人を念頭に,citizenの憲法上の定義を明示的に変更し,その上でデュー・プロセスや平等保護などの州に対する人権を保障しようとしたのであった。この結果,アメリカ国内で出生したものには(外国の外交官夫婦に生まれた子のように合衆国の管轄に服さないとされる者を除き)自動的に合衆国籍が付与されるという生地主義が取られ,血統主義を取る日本の駐在員夫婦に生まれた子などの場合,(おそらく不法滞在者の子であっても)自動的に合衆国市民となり,二重国籍となることがある。