2012年9月8日(土)ー9日(日) 日米法学会総会
国士舘大学世田谷キャンパス梅ヶ丘校舎34号館

9月8日(土)午後1時10分ー5時
判例研究会

午後1時10分ー2時
中村達也(国士舘大学)
CompuCredit Corp. v. Greenwood, 132 S.Ct. 665 (2012)
Credit Repair Organizations Actは,同法に基づく請求について仲裁による解決を禁じていないので,連邦仲裁法に基づき仲裁合意はその条件に従い強制することができる。

午後2時10分ー3時
竹部晴美(京都府立大学)
Micron Tech., Inc. v. Rambus Inc., 645 F.3d 1311 (Fed. Cir. 2011); Hynix Semiconductor Inc. v. Rambus Inc., 645 F.3d 1336 (Fed. Cir. 2011)
特許権侵害訴訟提起前に行われた当該訴訟に関連する社内文書の破棄について,それが社内文書保存方針によって合理的なビジネス上の目的とその必要性に沿ったものであれば違法ではないが,しかるべき訴訟を見越したうえで行われた場合には証拠隠滅に該当するとした事例。

午後3時10分ー4時
(1) 会沢恒(北海道大学)
AT&T Mobility LLC v. Concepcion, 563 U.S. __; 131 S. Ct. 1740 (2011)
連邦仲裁法が,州契約法上の非良心性法理に基づく(とされる)クラス仲裁の要請を専占するとした事例。

(2) 王子田誠(駿河台大学)
Gantler v. Stephens, 965 A.2d 695 (Del.Supr. 2009)
銀行事業部門の売却を計画する持株会社において買収提案を拒絶し売却プロセスを終了させ,非公開化取引を実施したことが取締役・役員の信認義務に違反するとされた事例。

午後4時10分ー5時
(1) 古田啓昌(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)
Koehler v. Bank of Bermuda, 12 N.Y.3d 533, 911 N.E.2d 825 (2009)
ニューヨーク州の裁判所は,判決債務者の財産が域外に所在する場合であっても,当該財産を所持している第三者がニューヨーク州の人的管轄権に服するときは,当該第三者に対し,当該財産を判決債権者へ引き渡すよう命じることができると判示した事例。

(2) 秋葉丈志(国際教養大学)
Perry v. Brown, 671 F.3d 1052 (9th Cir. 2012)
同性結婚を否定する州憲法改正と合衆国憲法の平等条項。
1. 事件の概要:カリフォルニア州における同性結婚と違憲訴訟
州裁判所における違憲訴訟
住民投票による州憲法改正と同性結婚否定
連邦裁判所における違憲訴訟
2. 争点の検討とデュー・プロセス条項の回避
3.平等権条項に基づく判断
住民投票の効果を巡る議論
Romer v. Evans判決の援用
審査基準の設定
立法目的の合理性の検討と違憲判断
4.訴訟手続に関して
原告適格
事実認定のあり方
担当判事の利害関係
5. 少数意見
6.連邦最高裁への道程

 

9月9日(日)午前10時ー午後5時
シンポジウム「アジア太平洋でのアメリカ法の影響」
アジア太平洋地域ではつねに外国法の影響を受けてきたとはいえ,アメリカ法の影響は限定的であった。東アジアでは,ヨーロッパ大陸法をモデルに基本法典が編纂された,オーストレイリアおよびニュー・ジーランドでは,コモン・ローを継受しつつ,イングランドの影響が圧倒的であった。
しかし近年,経済でのアメリカの影響力を背景として,ビジネス・ロー分野でのアメリカ法の影響がアジア太平洋地域でも強まってきている。それと同時に,アメリカに留学するこの地域の法律家が多くなることで,ビジネス・ロー分野以外のアメリカ法の影響も潜在的に高まりつつある。独自の法制度を維持してきた中国も,市場を開放することにより,アメリカ法の受容に積極的になり,アメリカ側からも中国への関心が強まってきている。とはいえ,アメリカ法やアメリカの法律家の独自性と,これらの諸国の伝統的な法体系とで,整合性に欠ける点も少なくない。
このシンポジウムは,日本のみならず中国,韓国,オーストレイリア,ニュー・ジーランドなどのアジア太平洋地域におけるアメリカ法のプレゼンスの現状と問題点を掘り下げ,将来を展望しようとするものである。

午前10時ー11時
Gordon R. Walker (La Trobe University)
基調報告:The Influence of American Law in the Asia Pacific Region
This paper traces the development of law in the Asia-Pacific region and examines the extent to which American law has shaped laws and legal institutions in the region. The structure of the paper is as follows: Part 1 provides a background narrative and focuses of the reception of the common law in the U.S. Part 2 traces the diffusion of U.S. law in the Asia Pacific region. Part 3 explores the notion of legal transplants and draws some conclusions about law reform in the region. A key finding is that U.S. law has provided a useful basis for law reform in select area of the law. Here, a key example is the adoption of U.S law on secured transactions in South Pacific jurisdictions.

午前11時ー11時40分
Manzawa Yoko 萬澤陽子(公益財団法人日本証券経済研究所)
コメント:オーストレイリアの会社・証券取引法制――アメリカ法の影響の視点から
Walker教授による"The influence of American Law in the Asia Pacific Region"をうけて,本コメントは,アジアパシフィックの中でも,Walker教授の専門領域の一つでもあるオーストレイリアの会社法,証券取引法の分野に焦点を当てる。この分野は,現在,一つの制定法(Corporations Act)で同じ機関によって運営・執行されているが,ここでのアメリ カ法の影響は限定的なように思われる。なぜなら,この分野で参考にされてきた主なモデルはイングランドであったし,また,オーストレイリアは,アメリカのように連邦政府が強いリーダーシップを取って早い時期に制定法を成立させることはしなかったからである(連邦政府による法が実現したのは2001年であり,アメリカより約70年遅い)。しかし,法で使われている概念は類似しているため,その解釈に当たってアメリカにおけるダイナミックなコモン・ローの発展はオーストレイリアでもしばしば注目されてきたし,また取り入れようとする動きが――時にアメリカの影響を強く受けるカナダの法の発展を通じて――あったことも事実である。本報告は,このようなコモン・ローの発展の視点から,オーストレイリアにおけるアメリカ法の影響を考える。

午前11時40分ー正午
質疑応答

午後2時ー3時
Ji Weidong 季衛東(上海交通大学凱原法学院)
基調報告:中国の知的財産権制度におけるアメリカ法の影響
イギリスの植民地であった香港島ではコモン・ローの継受をしたが,中国本土では,基本的にドイツを模範として近代的法典編纂を行っていた。したがって,制度の面からみれば,アメリカ法の影響がかなり限定的である。しかし,20世紀の最も影響力ある中国法律家王寵恵,呉経熊,楊兆龍,倪征燠らがいずれもアメリカに留学した経験を持つ。彼らの努力によって,ロスコウ・パウンドが中国司法部と教育部の顧問に就任し,法実務における中米交流が盛んになった。その延長線上,ジェロム・コーエンは1979年2月にハーバード大学国際租税法プログラムのなかへ中国税務官僚養成班を組み込んだ。これを皮切りに,とりわけコーエンが1981年に最初の外国人弁護士として北京で法律事務所を設けてから,ビジネス・ローの分野における中米提携関係がしだいに強化した。本報告は,上述した背景の下で,中国における知的財産権制度の整備と法改正を素材にしながら,アメリカ法からの影響を考察し,1990年代以降ビジネスのルールや,競争の自由度と公平性などをめぐって二つの超大国の間に繰り広げられてきた相互作用の複雑なメカニズムを解明しようとする。

午後3時ー3時40分
Ko Chang-Hyeon 高昌賢(Kim & Chang)
コメント:韓国におけるアメリカ法の影響 - 会社法及び証券法を中心に
韓国は日本を通じて近代法を導入した結果,基本的には大陸法系に属する。しかし,1960年代以降商事法,金融法,競争法,倒産法等諸般の分野にわたりアメリカ法の影響が非常に強くなっている。初期には主に日本を通じた間接的な影響を多く受けたが,近年は米国から直輸入する場合も増加している。会社法に関しては,今年4月から施行されている改正商法はCorporate GovernanceとCorporate Finance分野にわたり幅広い変化があったが,ここにも米国法の影響を強く受けた。一方,証券法は米国法をモデルとした日本法を受け継いだ結果,制定時から米国法の影響が絶対的であり,その後も証券関連集団訴訟(class action)制度,Fair Disclosure Rule,CEO/CFO Certification制度を含んだSOX法など,米国法上の制度を導入するための改正が数回にわたり行われた。しかし,この過程で立法上手違いもあって,既存法体系との衝突によって解釈や実務上運用に難点が発生する場合も少なくない。

午後3時40分ー4時20分
Iguchi Naoki 井口直樹(長島・大野・常松法律事務所)
コメント:American and common law influences on Japanese business law practices
After the World War II, American laws have been introduced in various fields of Japanese laws - Constitution, court procedures (civil and criminal), several revisions of Company Act, anti-trust law and regulations, securities exchange law and regulations, defect liability law and consumer protections, and patent invalidation system and practices. Meanwhile, contract laws and practices basically remain unchanged supported by solid and stable statutes, Civil and Commercial Codes which derives from French and Germany civil law systems and concepts introduced to Japan in late 19th centuries. It is understandable because main "players" of the Japanese business community remain unchanged and the number of foreign investors had not increased dramatically until the end of 20th century. However, having had an economic hardship in late 1990s, Japanese business community experienced a dramatic increase of foreign direct investment, through cross-border M&A of top-tier Japanese companies and banks. Japanese business law practices have incorporated several important items of American and common law practices. The reporter plan to refer to some “new” practices introduced in recent decades and now incorporated into indispensable part of Japanese business law practices: "Representations and Warranties (hyomei-hosho)" and "Due Diligence" in M&A transactions; Shareholders Agreement and Party's Autonomy in M&A transactions.

午後4時20分ー5時
質疑応答