2011年9月9日 法学部英米法試験解説

I.バリスタ有資格者といえども,偏りのない弁論をするため単独開業でなければ上位裁判所での法廷弁論権はないというのが伝統で,そのため公訴局に雇用されたバリスタも政府に傭われているということから,法廷弁論権が認められていなかった。1990年法は,法律専門職に研修を施して能力が示されたものについて法廷弁論権を与える法律専門職団体のプログラムを認可するようにしたが,法律事務所のソリシタについては認可が与えられたものの,公訴局や企業に雇用されたバリスタやソリシタについては,認可が認められなかった。そこで1999年法では,政府や企業に雇用されているという理由のみで法廷弁論権を拒絶できないものとし,公訴局のバリスタについては法廷弁論能力には問題がないはずなので,これにより法廷弁論権が与えられることになった。偏った弁論をするのではないかという懸念については,1999年法に1条を入れて,雇用者の命令と法曹倫理とが抵触する場合には後者を優先するものとした。

II.合衆国憲法第3編の「市民」については,Dred Scott判決で,黒人はここにいう市民ではない,とされたのに対し,第14修正で合衆国内で生まれたすべての者を市民であると明確にした。これが合衆国の国籍が生地主義を取っている根拠規定である。合衆国憲法第3編の州籍相違管轄権は,州裁判所が自らの市民に有利な裁判をするのではないかという疑念から設けられたものであり,多くは州法事件である。今となってはその疑念に根拠があるか疑問もあるし,連邦裁判所の主たる役割が連邦法の解釈適用とされることから,憲法上の大枠の中で法律上,訴額制限やcomplete diversityの要件を付け加えたのが§1332である。しかしcomplete diversityは憲法上の要件ではないので,クラス・アクションなどについて特別法でminimal diversityでよろしいとすることは可能である。 自然人については市民籍はdomicileとされ,1人につき1ヶ所とされるが,会社については設立州と主たる事業地の2ヶ所となる。そのため,自然人については多数当事者訴訟でcomplete diversityの問題が生ずるが,会社同士の訴訟では1対1の訴訟でもcomplete diversityが問題となり,多くの大企業がデラウェア州法人であることから,しばしば大企業間の訴訟でcomplete diversityが破られることになっている。

III.集中審理:ディスカヴァリで十分準備をしておかないで,トライアルになってから見落としに気付いても,取り返しがつかない。
Voir direとperemptory challenge:憲法上の制約はあっても陪審員候補者から自分側に不利と思われる者を忌避できるので,限られた情報の中で的確な忌避をするための経験と勘が求められる。
冒頭陳述:素人である陪審員に自分側の主張を受け入れてもらうためのテクニックとして,冒頭陳述で全体の構図を示し,後に出てくる証拠の意味について予告をしておくことと,陪審員の好感を得ておくことが必要となる。
証拠法:事前に法廷に提出される証拠や喚問される証人を振り分けるだけでなく,証人への質問とそれに対する回答については,伝聞などトライアルのその場で瞬時に異議を申し立てなければならない。それは,異議を提出しないと異議を放棄したとみなされるだけでなく,放棄に至らない出遅れも,陪審に聴かせてはならなかった情報が伝わってしまい,聴かなかったことにすることは現実には不可能だからである。
こういったことからアメリカの弁護士にはlitigatorといったトライアルを専門とする弁護士がいるのである。

IV. エクイティ上の救済は伝統的に,目的実現のために有効な手段を裁判所が案出でき,しかも管轄権を維持して適宜修正を施すことのできる弾力柔軟性があり,またその救済手段を実現するための裁判所侮辱がある。ブラウン判決以降,州側の抵抗があっても,過去の差別の痕跡を抹消するために連邦裁判所は,裁判所侮辱の制裁を背景に,強制バス通学などの具体的な制度改革を州側に求めてきた。アイゼンハワー大統領も,最後は連邦軍を投入して裁判所の命令の実現に協力した。ただ,エクイティ上の救済といえども,憲法違反が前提なので,救済の効果がないままにいつまでもだらだらと続けていくことはできなかったし,憲法違反のなかった地域へのwhite flightには対応できないといった限界があって,連邦裁判所の努力も大成功とはいえなかった。