2011年日米法学会総会

2011年9月10日(土)-11日(日)
於 大阪市立大学杉本キャンパス学術情報総合センター10階

9月10日(土)午後1時-4時50分
判例研究会

午後1時-1時50分
(1) 渕圭吾(学習院大学)
Mayo Foundation for Medical Education and Research v. United States, 562 U.S. ---, 131 S Ct. 704 (2011)
連邦保険拠出法の定める免税要件に関する財務省の解釈がChevron deferenceの対象となり,またChevron基準に照らして合理的であると判断された事例。

(2) 佐藤智晶(東京大学)
Williamson v. Mazda Motor of America, Inc., 562 U.S. ---, 131 S.Ct. 1131 (2011)
1989年当時の連邦自動車安全基準208について,自動車メーカーが後部内側の座席に腰ベルトではなく,3点式シートベルトを装備すべきだったことを理由とする州の不法行為法に基づく訴えを専占しないとした事例。
Bruesewitz v. Wyeth LLC, 562 U.S. ---, 131 S.Ct. 1068 (2011)
全米子どもの予防接種被害に関する法律について,ワクチンの副反応による負傷または死亡に対する損害賠償を求める原告によって提起された,ワクチンメーカーを相手とする設計上の欠陥を理由とするすべての訴えを専占するとした事例。

午後2時-2時50分
(1) 青山豊(早稲田大学)
Arizona Christian School Tuition Organization v. Winn, 563 U.S. ---, 131 S.Ct. 1436 (2011)
国教樹立禁止条項に反するとされる州の税額控除措置に対し連邦裁判所で違憲の異議申し立てを行う当事者適格が州の納税者に欠如していると判示された事案。

午後3時-3時50分
(1) 奥邨弘司(神奈川大学)
Cartoon Network LP, LLLP v. CSC Holdings, Inc., 536 F.3d 121 (2d Cir. 2008)
本年1月,我が国の最高裁判所は,テレビ番組のリモート録画サービスおよび転送サービスに関して,複製や公衆送信の主体を業者であるとする判断を下しました。今回取り上げるCartoon Network事件は,類似のサービスにおける複製や送信の主体を地裁は業者,控訴裁はユーザであると判断したものです。これらの判決は,最近注目されているクラウド・コンピューティングにも影響を与えるとの指摘もあります。これらの判決間の結論の違いが,日米の法制度の差によるものなのかどうかという点にも注目して,Cartoon Network事件の意義,影響などを分析したいと思います。

(2) 井村真己(沖縄国際大学)
Thompson v. North American Stainless, LP, 562 U.S. ---, 131 S.Ct. 863 (2011)
使用者が,EEOCへ性差別救済の申立を行った被用者の婚約者である同僚被用者を解雇した場合,解雇された被用者は1964年公民権法第7編の反報復規定に定める「権利を侵害された個人」に該当し,第7編に基づく原告適格を有する。

午後4時-4時50分
(1) 城所岩生(国際大学GLOCOM)
Authors Guild v. Google Inc., 2011 U.S. Dist. LEXIS 29126 (No. 05 Civ. 8136 (DC), March 22, 2011)
グーグルが図書館の書籍をデジタル化して,検索,閲覧可能にするサービスに対して提起された集団訴訟の和解案は対象を旧英連邦諸国に限るなどの修正が加えられ,日本は対象外となったが,その修正和解案を却下した事例。

(2) 東川浩二(金沢大学)
Snyder v. Phelps, 562 U.S. ---, 131 S.Ct. 1207 (2011)
イラク戦争で死亡した軍人の葬儀において,軍が同性愛者に寛容である事を理由に,激しく軍を非難する行為が,遺族に対して強い精神的苦痛を惹き起こしたとしても,言論の内容が公の関心事を含む限り,第1修正によって保護されるとした事例 。

 

9月11日(日)午前10時-午後5時
シンポジウム「ユビキタス時代の情報法における基底的価値とエンフォースメント(Fundamental Values and Enforcement of Information Law in the Ubiquitous Network Age)」

【概要】
 インターネットに象徴される情報通信技術の急速な発達に伴って生じる新たな法的課題に対応するために,ここ十年余りの間に,日米を含む多くの国々において,立法措置を含む制度整備が着実に進められてきた。
 もっとも,近年では,身の回りの環境にコンピュータが遍在的に組み込まれたユビキタスないしパーベイシブ・コンピューティングといった先端的技術のさらなる展開により,コンピュータやネットワークがいつでもどこでも利用できるようになり,また,監視や追跡がときに可視化されない形で広がるなど,従来のサイバースペースにおける制度設計の前提になるコミュニケーション特性や規制可能性が次第に変化している。こうした中で,例えば,ネット上の性的表現や名誉毀損等の違法・有害な情報の流通に対する規制,情報公開,プライバシー・個人情報保護,著作権等に関する法制度のエンフォースメント―つまり,法の実際の執行や運用―の具体的な場面においては,制度設計においてそもそもの基底に据えられていたはずの価値や理念に照らして実効的な問題解決がなされているのかが,問い直される機会も増えてきている。
 本シンポジウムでは,今後のネット上のコミュニケーション特性を方向づけるであろうユビキタス化による社会変容という文脈の下で,情報にかかわる法のエンフォースメントに際して対抗利益間の調整のあり方が問われている幾つかの場面に注目し,そこでの問題解決において考慮されるべき基底的な価値や原理,そして,対立する諸利益間のバランスを図るための手法について,検討を行うこととしたい。さらに,こうした検討に際し,東日本大震災において提起された,情報と法に関する課題についても,できる限り取り上げてみたい。

【基調講演】Jed Rubenfeld(イェール大学)
The Right to Anonymity (Provisional Title)
 The phenomenon of anonymity will require serious consideration and perhaps reconceptualization in the twenty-first century. A feature of the modern urban world was the possibility of entering, moving about, and taking action in the public domain -- in the streets, in stores, and so on -- without being known or identified by those with whom one interacted or by the authorities. With the ubiquity and pervasiveness of image capture and data collection in the networked world, whether by cell phone or by video monitors, the possibility of such anonymity is quickly being destroyed. At the same time, however, new forms of anonymity are burgeoning online. In short, the Internet is both killing and enabling anonymity. Real-world anonymity may no longer be possible, while online anonymity may no longer be stoppable. What should we make of these developments, and what should the law's response be? Is the destruction of real-world anonymity to be mourned? Is the burgeoning of virtual anonymity to be celebrated? Should there be a right to anonymity? And if so, in which world -- real or virtual -- should this right be guaranteed?

【報告・全体討論】
市川正人(立命館大学),川岸令和(早稲田大学),鈴木秀美(大阪大学),長谷部恭男(東京大学),山川洋一郎(古賀総合法律事務所),山口いつ子(東京大学)