日米法学会総会

2006年9月9日(土),10日(日)

於:法政大学ボアソナード・タワー26階(市ヶ谷キャンパス富士見校舎内)
東京都千代田区富士見2-17-1

9月9日(土)

午後1時〜2時50分

研究会:「いま,新たにホームズを読み直すこと」
金井光生(福島大学)・会沢恒(北海道大学)・谷口功一(首都大学東京)・淺野博宣(神戸大学)
金井光生氏(福島大学・憲法哲学)の『裁判官ホームズとプラグマティズム−<思想の自由市場>論における調和の霊感−』(風行社,2006年)を書評する。本書は,ホームズ裁判官のプラグマティズムを,一般的に知られるW.ジェームズ流の唯名論的な実用主義の観点からではなく,C.S.パース流の実在論的な非実用主義の観点から,Abrams判決における「思想の自由市場」論を頂点として理論−実務にわたり整合的に解明しようとするものであり,併せて,コミュニケーション論,公共性論,立憲主義と民主主義といった論点をも射程に含めて論じたものである。会沢恒氏(北海道大学・英米法学)からは,本書の紹介がなされたのち,本書第部を中心に英米実体法への含意の広がりについてコメントがなされる。谷口功一氏(首都大学東京・法哲学)からは,本書第泄狽中心にプラグマティ(シ)ズム内在的あるいは哲学史的にコメントがなされる。淺野博宣氏(神戸大学・憲法学)からは,本書第。部を中心にAbrams判決を素材にホームズの表現の自由論についてコメントがなされる。最後に,フロアからの質問・コメント等を含めて,金井氏が質疑応答に立つ。

午後3時〜3時50分

判例研究会:Mainstream Marketing Services, Inc. v. FTC, 358 F.3d 1228 (10th Cir. 2004)
佐々木秀智(明治大学)
迷惑な商業テレマーケティングを規制するDo-Not-Call Registryは,プライバシー保護及び消費者保護を目的とし,テレマーケティング業者の営利的表現の自由を必要以上に制約しない合理的な規制であり,合衆国憲法第1修正に違反しない。

午後4時〜4時50分

判例研究会:EEOC v. Luce, Forward, Hamilton & Scripps, 345 F.3d 742 (9th Cir. 2003)
藤原淳美(志學館大学)
Title VII of the Civil Rights Act of 1964に基づく労働者の権利の仲裁付託可能性を否定した第9巡回区合衆国控訴裁判所の先例を,同裁判所が後の判例において覆した事例

9月10日(日)

午前10時〜午後5時

シンポジウム「アメリカ法曹倫理の最前線−−社会変動と法曹論」

Eric L. Hirschhorn (Winston & Strawn)・Bradley Wendel (Cornell Law School)
下條正浩(西村ときわ法律事務所)・須網隆夫(早稲田大学)・森際康友(名古屋大学)

【目標】
アメリカでの法曹倫理の現況が問いかける多様な問題をわかりやすく取り上げ,それらがアメリカの法と社会に対する理解の進展をもたらすだけでなく,わが国の法実務に,また,法科大学院での法曹倫理教育にどのような示唆を与えるかを探究したい。さらに,これらの作業を通して,アメリカの法曹倫理の現状が問いかけているものの解明を試みる。
【方法】
全体を3部に分ける。第1部では,アメリカからEric L. Hirschhorn (弁護士、Winston & Strawn, LLP ワシントンDC事務所のパートナーで,国際取引などの他,法曹倫理判断を担当)およびW. Bradley Wendel(法哲学者,コーネル大学,法曹倫理関係科目の教育)を迎え,同国の法実務における弁護士倫理の最先端の諸問題の紹介を受け,アメリカの法曹倫理の実情およびその学問研究(社会科学的および法哲学的研究)の現段階の概要を理解する。
第2部では,日本サイドのパネリストである下條正浩(弁護士,西村ときわ法律事務所パートナーで元日弁連弁護士倫理委員会委員)および須網隆夫(早稲田大学、法曹倫理ほか実務科目担当,弁護士で元日弁連弁護士倫理委員会委員)が,それらがわが国の法実務おいてどのような形で現れているか(もしくは,未だ現れていないか),およびそれらが法科大学院における法曹倫理教育にとっていかなる意味を持つかを考察する。
第3部では,上記の日米のパネリストに森際康友(名古屋大学,法哲学・法曹倫理担当,愛知法曹倫理研究会主宰者)を加え,弁護士倫理の諸問題がアメリカ社会における法曹の機能,ひいてはグローバル化が進行するアメリカ社会の構造的特質とどのように関わるかを考察する。とくに,法曹が提供する<社会正義>という公共財の安定的供給にとって,それらの問題が何故,どのような障碍となっているのかを考える。こうして現代日米の司法において弁護士倫理を中心とした法曹倫理が持つに至りつつある役割の解明を試みる。
【期待される成果】
法曹倫理の遵守が,1)法曹各自・各法律事務所の私益,2)法律専門職全体の利益,そして3)社会正義の実現という公益,という3つの次元の利害の重合をはかる営みであることを理解する。そこから,法曹倫理が単なるお題目ではなく,また,保身のためのガイドラインにとどまるものでもなく,「自由と正義」実現のための法的メカニズムの一環として機能している姿が明らかになる。この認識が,わが国の法曹倫理実践だけでなく,弁護士会や法科大学院における法曹倫理教育に理論的,道徳哲学的基盤を与える一助となる。
【取り上げる予定の問題】
1) 量刑ガイドライン問題: 刑事訴訟,とくにホワイト・カラー犯罪における量刑裁量の条件として,広義の守秘義務の放棄を求める慣行の問題
2) civil exposure of lawyersの問題: サルベインズ・オックスリー(SOX)法やゲートキーパー計画への法曹倫理レベルの対応を含む,企業統治と法曹倫理の問題
3) lawyer mobility問題1: 法曹の流動性促進に伴う,州際・国際的サービスを提供する大規模ロー・ファーム間,あるいはその中で生じうる利益相反の問題
4) lawyer mobility問題2: 以上は主として大規模ロー・ファームや企業法務に関わる問題だが,それらが社会的弱者の弁護を行う法律扶助システムの展開とどのように関わるかの問題
【考察予定の論点】
1) 守秘義務・利益相反を中心とした,弁護士のコア・ヴァリューの展開を説明する理論
2) 法律専門職の社会的責任・組織化・法務サービス提供方法・法曹養成システムの変貌とその法曹倫理への影響
(ア) 法曹の外在的規制・制御手法の多様化と法曹倫理の関係
(イ) 専門職の自律性とcivil exposureによるその動揺
(ウ) 専門職責任とビジネス主体としての責任との相克、弁護士の社会的責任の概念
(エ) 女性、少数者の法律職への進出増加の倫理的意義
(オ) 法曹の公共的機能と社会正義の安定的供給にとっての法曹倫理の意義
【参考文献】
1) Wortham, Leah & Eric L. Hirschhorn [2005], “Sarbanes-Oxley, the Gatekeeper Initiative, and Other Forks in the Road: Current Issues in U.S. Law Governing Lawyers” (unpublished paper)[プログラムに所収]
2) リア・ウォーサム、エリク・L・ヒルシュホーン・著、森際康友・訳〔2005〕 「サルベインズ・オックスリィ法、ゲートキーパー行動計画、その他の分かれ道――米国弁護士の法と倫理、最新事情」(未刊、Wortham & Hirschhorn [2005]の試訳)[プログラムに所収]
Winston and Strawn Briefing [2006], “U.S. Sentencing Commission Votes to Eliminate Language Requiring Corporations to Waive Attorney-Client and Attorney Work Product Protections to Earn Credit for Cooperation” Available at: http://www.winston.com/pdfs/US_SentencingCommissionVotes.pdf
3) Wendel, W. Bradley [2006], "Institutional and Individual Justification in Legal Ethics: The Problem of Client Selection”. Hofstra Law Review, Forthcoming. Available at SSRN: http://ssrn.com/abstract=878375
4) 森際康友編『法曹の倫理』〔2005〕(名古屋大学出版会)