2004年日米法学会総会プログラム 於成蹊大学(東京吉祥寺)

9月11日(土)午後1時ー5時20分 講演および判例研究会
9月12日(日)午前10時ー午後5時 シンポジウム

9月11日(土)
1時ー2時20分 講演「英系の大型法律事務所の国際化 − その軌跡と展望」 木南直樹(フレッシュフィールズ法律事務所)
ヨーロッパ主要各国ではECの統合と相俟って大型企業法務案件,国際金融案件を取り扱う法律事務所は,一部の米系の法律事務所と共に,マジックサークルと呼ばれる英系の大法律事務所を軸に統合,ネットワーク化をほぼ完成している。ただ,ここに至るまでの軌跡は各国まちまちである。一方,アジアでは,外国の法律事務所の進出を禁止したり,現地弁護士との業務提携,雇用を制限する国がまだまだ多い。また,中国経済の急成長,インドの潜在的成長力,その反面東南アジアの相対的地盤沈下,ホンコン,シンガポールの役割の変化など,アジアに進出している英系の大型法律事務所のアジア戦略も変わりつつある。ヨーロッパでの統合をほぼ完成し,アジア戦略を再構築する英系の大型法律事務所の国際化戦略にとって,世界最大のリーガルマーケットである米国でどう展開するか,もっとも重要な課題である。

判例研究会
2時30分ー3時20分
 第1部会 Epilepsy Foundation of Northeast Ohio v. National Labor Relations Board, 268 F.3d 1095 (D.C. Cir. 2001) 奥野寿(立教大学)
排他的交渉代表たる組合が存在しない状況において,懲戒処分のための事情聴取に際し被用者が同僚被用者の同席を求めることは,NLRA7条により保護される行為に含まれる

 第2部会 Goodridge v. Department of Public Health, 798 N.E.2d 941 (2003); Opinions of the Justices to the Senate, 802 N.E.2d 565 (2004) 紙谷雅子(学習院大学)
婚姻を希望している2人の個人が同性である場合,婚姻が与える保護,利益,義務 を,州は,州憲法に抵触せずに,拒否できないと判断した事例,および,異性の配偶 者の場合には「民事上の婚姻」を,同性の配偶者の場合には「民事上のユニオン」を 規定する州法修正案は,制定された場合,州憲法に抵触する疑いが非常にあると州議 会に勧告した意見

3時30分ー4時20分
 第1部会 Metro-Goldwyn-Mayer Studios, Inc. v. Grokster, Ltd. 259 F.Supp.2d 1029 (C.D.Cal. 2003) 城所岩生(成蹊大学)
2001年に著作権侵害判決が下りたナップスターと類似したファイル交換ソフトだが,ナップスターと異なり自社のサーバーを通さずにユーザー同士が直接ファイル交換できるソフトを無料配布した,グロクスターは著作権を侵害していない
**最近,上訴審判決MGM Studios, Inc. v. Grokster Ltd., 2004 U.S. App. LEXIS 17471が下されたので,報告ではこちらを紹介する**

 第2部会 Rene v. MGM Grand Hotel, Inc., 305 F.3d 1061 (9th Cir. 2002) 吉川英一郎(大阪学院大学)
Sexual orientation(性的志向(同性愛者か異性愛者かということ))を理由とするハラスメントは,1964年公民権法第7編上,sex(性別)による差別として提訴可能であると判断した事例

4時30分ー5時20分
 第1部会 McConnell v. Federal Election Commission, 124 S.Ct. 619 (2003) 東川浩二(金沢大学)
連邦選挙運動法の規制を受けないいわゆるソフトマネーを禁止する超党派政治資金改革法は,政治腐敗の防止がその目的であって,献金や意見広告の費用負担という形式での表現の自由を不当に制約するものではない,とされた事例

 第2部会 Flores v. Southern Peru Copper Corp., 343 F.3d 140 (2d Cir. 2003) 小沼史彦(成蹊大学)
「生命に対する権利および健康に対する権利は、十分に明確な慣習国際法上の規則ではない」
1789年の外国人不法行為法(28 U.S.C. 1350)に基づき,慣習国際法上の人権侵害を争う訴訟が,Filartiga v. Pena-Irala, 630 F. 2d 876(2d Cir. 1980) 以来,頻繁に提起され,拷問や戦争犯罪といった重大な人権侵害が認定されているが,上記判決の考え方には批判もある。28 U.S.C. 1350が,当初,こういった訴訟を想定していなかったことは明らかであるが,その立法主旨を確定しうる制定過程の記録は残っていない。本判決は,現地住民に健康被害をもたらした,米国会社のペルーにおける操業は,生命に対する権利および健康に対する権利の侵害であるとする訴えに対して,管轄権を認めなかったが,上記判決の考え方を踏襲し,また,これまでの裁判における論点を整理している。本報告は,本判決を通して近年の28 U.S.C. 1350訴訟を概観し,その後の動きも視野に入れて,今後の展望を考えるものである。

9月12日(日)シンポジウム
日米における行政「法」改革の方法と成果
パネリスト:
Jody Freeman, Professor of Law, UCLA School of Law,
Ronald Levin, Professor of Law, Washington University School of Law
Jeffrey Lubbers, Fellow in Law and Governance, American University Washington College of Law
常岡孝好(学習院大学法学部教授)
中川丈久(神戸大学大学院法学研究科教授)

 日本においては,行政法の分野でここ10年ほどの間に,重要な「法」改革が次々と成し遂げられた。行政改革や地方分権改革に伴う,行政組織,行政手続,情報公開,地方自治の各領域における法制改革,そして司法制度改革の一環としての行政事件訴訟法の改正がそれである。その過程で,「行政活動と法のあるべき関係」について,従来から学界で指摘されてきた課題が立法的に解決されたり,新たに発見された課題が直ちに解決されたりしている。しかしながら,数十年来の課題でありながら現在なお積み残されたままのものも種々あり,また新たに発見された課題で,解決の方向性がまったく模索中のものもある。そのため,日本の行政「法」改革は,むしろまだこれからが本番であるという見方も強い。
 行政法分野の法制の改革は,いわゆる行政個別法にもかかわることが多く,きわめて多様な『利害関係者』の間の調整を行いながら,継続的に行う必要がある。そのため,「何をどう改革するべきか」という内容面のみならず,「どのような受け皿組織によって,継続的な改革を行うべきか」という方法論的課題が,同等の重要さをもって認識されているところである。
 行政法制の継続的改革という点では,米国は長い歴史を有している。日米の統治構造の違いに由来する相違もあるが,他方,共通の課題として考えるべき側面も少なからず存在する。
 そこで,本シンポジウムでは,「日米における行政『法』改革の方法と成果」と銘打ち,次のような研究を行う。
 第1に,行政法制改革の方法として,継続的改革のためにどのような体制を組むことが有効であるかについて,米国の経験について検討する。かつて存在し,今その復活が一部で検討されている「合衆国行政会議」(Administrative Conference of the United States),そして現在でも活発に活動しているアメリカ法曹協会(ABA)における行政法セクションである「行政法・規制手法部会」(Section of Administrative Law and Regulatory Practice)という2組織に焦点をあて,これらの組織による改革提案がどのように連邦政府の立法過程において機能してきたのかを検討する。
 この点については,両組織に深く関わりを持ち,行政法制改革のための数々の提案に携わってきたRonald Levin教授(Washington University School of Law)及びJeffrey Lubbers氏(American University Washington College of Law)が,その具体的な機能の仕方について,検討を加える。
 第2に,行政法制改革の内容,すなわち,何をどう改革してきたか,またどう改革するべきかについての理論的視座を提供する。
 まず,今後どう改革するべきかについて,現在,多くの国の行政法学界において共通の問題関心となっている「市民と政府の協働型統治」という視点から,行政法分野の法制改革への示唆を検討する。すなわち,政府周辺法人,民間委託・民間化,協定などの現象を通じて,行政過程は,従来想定されてきた公対私という関係よりはむしろ,個人・公私の団体(社会福祉法人といったタイプのもののほか,各種の利益集団・シンクタンク、政府関係法人等),そして行政組織の間のネットワーク関係によって,企画立案やその執行がなされていることのほうが多い。こうした行政過程の現実と,既存の行政法制との軋轢,そしてその是正はどのような立法政策によって可能かについて,米国における協働統治論の第一人者であるJody Freeman教授(UCLA School of Law)が検討を行う。
 ついで,これまでの法制改革の成果の比較として,日米でもっとも落差が大きいと思われる行政手続法制と行政訴訟法制をとりあげ,主として日本法の立場から日米比較を試みる。行政立法手続改革を中心とした行政手続改革について,常岡孝好教授(学習院大学法学部)が取り上げ,行政訴訟については,日米の訴訟観の違いという観点から中川丈久教授(神戸大学大学院法学研究科)が取り上げる。